「成績保証」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。
一部の大手個別指導塾では導入されていますが、ひとり塾での導入は経営上アリなのでしょうか。考えます。
成績保証とは
簡単に言えば「成績が上がらなければ、一定期間無料で指導させて頂きます。」というやつです。
集団塾では基本的には(というより私の知るところでは)やっておらず、主に一部の大手個別指導塾で導入されています。
具体的な内容は、細かい文言の差こそあれ、以下のような感じです。
入塾後1年以内に、学校の中間・期末テストで、必ず1回以上
- 60点未満で入塾の場合、受講科目が1科目で+20点以上
- 60点以上で入塾の場合、受講科目が1科目で80点以上
になることを保証します。これが達成できなかった場合、対象科目につき3か月分の授業料を免除とします。
うちの子は今数学が50点くらいだから…1年以内に70点は保証してくれるってことね!
これだけ聞くと保護者にとってはメリットしかないように見えます。
成績保証の対象となる条件
成績保証は、どんな子にでも対応しているわけではなく、一定の条件があるようです。
こちらも各塾、それほど大きな差はありません。大体以下のような条件を設定しています。
- 中1の3学期(12月)~中3の1学期(4月)の間に入塾していること。
- 遅刻・欠席・宿題忘れが、対象期間である入塾後1年以内で合計3回未満であること。
- 季節講習へは必ず参加し、教室長の提案内容で受講すること。
- 期間内、学校の授業に参加していること。(要は不登校は対象外)
- 対象教科30点未満は週2回以上、30点以上は週1回以上の通常授業を受講していること。
- 英語を除く(一部の塾)
この条件を見て、塾講師として正直なことを言うと…
これを達成できる子は、それなりに勉強の習慣や意識がある程度備わっている子だな、と思います。
低学力でサボり癖があって学習習慣がない子は、達成できる可能性は低いです。
確かに宿題を1日1ページ1週間7ページを出しても、毎週しっかりやれるだけの習慣は必要ってことだ。
運動経験が全くなく、普段から暴飲暴食している人がライザップを受けるようなものですから…。よほど徹底した管理がないと厳しいでしょう。
また一部の塾では、英語を対象外にしています。
学習指導をしていると分かるのですが、特に英語は積み上げ教科なので、すぐに成績を上げることは結構難しいです。
中1でサボって、be動詞と一般動詞の違いも分からない子に対して、いきなり、中2の助動詞や接続詞を教えても根本的に理解できません。
特に低学力層だと1からの復習が必要であるケースが多いので、成績を上がるのに時間がかかるため、一部の塾では英語を対象外にしているのでしょう。
ひとり塾で成績保証は危険?
結論、ひとり塾で成績保証を設定するのはおすすめしません。
売上への影響が大きい
成績保証という制度は生徒数の多い大手塾が取れる戦略です。
複数校舎で1000人の生徒がいれば、そのうち数人が成績保証の対象になって3か月無料になったとしても売上に大したダメージはありません。
日本人は「保証」とか「保険」などと言った言葉が大好きですから…、そういった言葉を呼び水にして問い合わせを増やすという目的もあるのでしょう。
しかし、定員が少ないひとり塾では、ひとりでも無料になると売り上げへのダメージが大きいです。
1人でも月2万くらい売り上げが変わるわけです。3ヶ月で6万ですよ。ひとりでこれですからね。
いや、俺は成績を上げる自信があるから大丈夫だ!
どれだけ塾長に自信があろうが、実際成績が上がるかどうかは、生徒の努力次第です。頑張ったらその分比例して成績が上がるという単純な世界ではないのです。
たまたま無料授業の対象になりそうな子が5、6人いると…36万のタダ働き…想像したくもないですね。
ほとんどの保護者にとってプラスにならない
成績保証を設ければ、無料の生徒と有料の生徒が同じサービスを受けるという状況が発生するわけです。
私がもしお金を払っている側なら、いい気はしませんよ。成績が上がっているから別にいいとかいう人もいるかもしれませんが、それとこれとは別。
うちの子は一生懸命勉強して成績を上げたのに、大した努力もせず成績が上がっていない子が無料になるなんて消費者側からすればおかしな話です。
でもまあ…成績が上がっていない子の保護者にとってはありがたいんじゃない?
この制度の話をすると「3ヶ月授業料無料」に目が生きがちですが、そもそも1年間成績が上がっていないんですよ?
保護者は、3ヶ月無料になるのと子供の成績が上がるのと、どちらが嬉しいでしょうか。
1年間成績上がっていないけど、3ヶ月無料で通えるなんて嬉しい!
このように考える保護者はいないと私は思います。
むしろ、1年通ってダメだったから本当は塾を変えたいけど、3ヶ月無料の特典があるなら、とりあえず別の塾を探しながら無料で通わせるか、くらいに考えていると思います。
成績保証で得する保護者などいないと私は思っています。
教える側のモチベーション低下
大手の塾なら教えるのはアルバイト講師。
担当生徒の成績が上がろうが下がろうが給料は変わりません。
一方でひとり塾では、たったひとり成績保証対象になるだけで塾長の収入にダイレクトに影響します。
無料の生徒と有料の生徒、どちらに力を入れて教えたいですか?きれいごとなど言いません。私ならお金を払ってくれているご家庭の生徒に力をいれたいです。
でも成績が上がってないのはあなたの指導力不足でしょ。成績が上がらず、成績保証の対象になったから、指導のモチベーションが下がるなんておかしい!
その通り、おかしいんです。私も思います。だから私はひとり塾で成績保証の導入には反対なのです。
厳しい保証条件でも成績が上がらない子の特徴
成績保証の適用条件をクリアしているのに成績が上がらない子はどんな子でしょうか。
勉強を作業のようにこなすだけの子です。
目の前の問題を『解けるようにする』のではなく、『終わらせる』ことが目的になってしまっている子。
塾講師をしていると分かりますが、このような子は一定数います。
宿題はちゃんと終わらせるので一見真面目にやっているように見えて、中身は理解できていません。
- 間違えたとき、赤で正しい答えを書くだけで終わっている。どのように解くのかは一切調べない。
- 分からないときは、答えと解説を丸写しする。答えと解説を赤ペンで書くことを直しだと思っている。
- 分からないのに質問しない。
これらを指導して、すぐに改善できる子なら問題はありません。
しかし、勉強に対する意識をすぐに改善できる子はそれほど多くはありません。
今まで解答を赤ペンで書くだけだった子が、突然解説を読んだり、調べたり、質問したりと行動に移すことは簡単ではないのです。
「自信があるから成績保証」は嘘
結論、成績保証という言葉は、ただの呼び水です。
保障や保険が大好きな保護者を呼び込んで顧客を増やす戦略にすぎません。
『指導に自信があるので成績保証を導入しています』は嘘ですよ。
勉強に対する意識や意欲がない子では到達できないような厳しい条件を設定しているわけですから、そもそも対象者も少ないでしょう。
成績保証とは…
少ない対象者の3か月分の授業料無料などでは大してダメージを受けない大手塾の販促戦略です。
少ない対象者が結局退塾し、悪い口コミがぽっと出ても大してダメージを受けない大手塾の販促戦略。
ひとり塾は真逆です。
たった1人無料になるだけで売り上げに響くひとり塾。
たった1人の悪い口コミがその後の集客に影響するひとり塾。
大手の戦略をひとり塾はマネをしてはいけません。
そもそも成績保証などしなくても、成績が上がれば勝手に口コミが増えて問い合わせにつながります。
ひとり塾で安易に『保障』や『保険』などといった言葉を使うのは危険です。
私は『指導に自信があるので、成績保証など導入する必要もありません』と言えるようなひとり塾を目指すべきだと思います。
成績保証を導入し、うまく販促につなげ顧客満足度を上げているひとり塾もあるかもしれませんから、参考までに。